モーパッサン 他詩編

Autres poèmes de Maupassant



(*翻訳者 足立 和彦
  著作権は執筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)

ボードレール 解説 今日残されている中で、モーパッサンの最も古い詩作品は13歳の時に書かれたものである。実質的には18の頃から、本格的な詩作活動が始まる。
 その中心となるものは『詩集』に収録されることになるが、そこに含まれなかった作品も多数存在する。いわば習作というべきこれらの詩編に、青春時代の作者の姿、そして独自の詩情を模索する様子を窺うことが出来る。
 69年頃の詩作品にはミュッセの影響が濃厚であるが、普仏戦争体験の後、モーパッサンはロマンチスムと決別し、ペシミスムが影を落とすようになる。「昨夜通りで見たもの」「(青春はもはやなく・・・)」の二編は、都会の情景を描写したもので、ボードレール(右画像)の模倣とも注釈されるもの。だがこれ以降、モーパッサンはパリという街に詩情を見出すことは試みず、むしろ自然へと赴く。
 「十六世紀」はあるいはロンサール風の詩作といえるかもしれないが、実際のところはまだロマンチスムの痕跡を感じさせる作品。18歳の一時期に師事したブイエ風の小品なども試みた後、レアリスムに則る独自の作風へと移ってゆくと言えるだろう。
 『詩集』と合わせてこれらの詩作品を眺めることで、1880年までの「詩人モーパッサン」の全体像をご覧頂きたい。


  作品リスト
***** ***** ***** *****



エトルタの「令嬢たちの部屋」についての伝説
Légende de la Chambre des Demoiselles à Étretat

ゆっくりと波は訪れ
  岸辺を
いつまでも揺すり愛撫する。
それは悲しい秋の歌
  単調に
麗しの日々を求めて涙する。

孤立した崖の上の
  その場所
水の上に張り出して。
細い道がそこへ通じる
  葵と烏との
真の住まい。

人目にもつかぬ洞窟
  宙に浮かび
空と海との中間に
忘れられた部屋
  世界から
隔てられて。

かつて一人ならぬ愛らしい
  若い娘が
恋人に会いにやって来た。
この隠れ家は
  慎み深く
幸福な者を隠してきたという。

月の光は見たという
  一人ならぬ
心も軽い娘たち
足早に小道を駆け
  恐れも知らず
危険にも無頓着に。

けれど獲物の上を旋回する
  鷹の如く
彼女たちを窺うのは堕天使
いつでも罪を犯させる
  その先割れた
蹄の爪が跡残す所。

細い額のこの岩へと
  通じている
丘のふもとに、ある晩
無垢な少女が
  やって来て
婚約者を待っていた。

さてイヴを失った男
  浜辺の上
陽気な足取りで彼女を追った。
彼は言う「結婚があなたを誘う
  はやくおいで
優しい瞳の美しい娘よ

向こうの薔薇の寝床は
  すっかり花開き
若い恋人があなたを待っている
その孤独な秘密を
  成し遂げるため
彼はあの塔を選んだのだ」

彼女は狂喜し身も軽く
  見知らぬ女は
ああ、忠実なる天使が
泣くのも聞かずに
  そばには
声低く笑うサタン。

というのも、あまりに不実な
  その案内に従い
彼女は小道を滑りゆく。
だが背徳の彼は、頂から
  奈落へと
女を投げ落した――力強き神よ!

彼女の淡い影は残り
  苦しみながら
細い小道を見張っている。
この岩場に人が
  近づくや
彼女はその白い手を伸ばす。

この場所に、呪われた彼女が
  住んで以来
落ちた女は存在しない。
そうして彼女は復讐する
  大天使に
彼女が屈した相手に対して。

見に行きなさい、娘たちよ
  若い娘たちよ
私の物語に心痛めたら
あなた達のためにこそ、人の噂は
  名付けたのだから
あのエトルタの洞窟を!

その足元に波は訪れ
  岸辺をたたき
いつまでも揺すり愛撫する。
それは悲しい秋の歌
  単調に
麗しの日々を求めて涙する。
[エトルタ、1871年]




昨夜通りで見たもの
Chose vue hier soir dans la rue

その頬はべたつき、化粧の下に汗を流し、
その青緑色の目は開かれ、愚かしく、視線も定まらず、
その乳房は揺すられ、腹の上に垂れ下がり、
その顎は歯が抜け、洞窟のように黒く、
醜くもかすかに開かれた、汚染の源、
一言口にする度に鼻元へ飛びかかる。
たるみ、緩んだ肉の下に、
腐敗したべとつく液体が波立つのが感じられた。
パリ、1872年




(青春はもはやなく・・・)
(La Jeunesse n'est plus...)

青春はもはやなく、打ちひしがれた我等の種族は
そこに酒場を建て、そこでは誰もが春をひさぐ
中へ入ろうと望む者は、敷居に残さねばならない
いまだ残った勇敢さと高慢さとを。
今や、心は虚しく、知性も虚しく、
蒼ざめた青年時代がゆっくりと崩れ落ちる。
驚くべきこの白痴の過ぎ行くのが見えるか
手袋をはめ、粉を振り、売女の匂いをさせながら、
美徳を哂い、魂の存在を信じず、
控えの間に佇みながら、順番を待つのは、
忌まわしい淫らな女の、公衆寝台の前
値引きされたつかの間の愛を得るために。
なんということ、苦い皮肉ではないか
この高貴で高邁な勝利者が話すのを見るのは
厚かましく、心もない、この汚れた存在に向かって、
母親に話す時よりも尊敬を込めて。
影が訪れ、都市を覆う頃には、
半ば裸の女達の集団がひしめくのが見える
どこからやって来るのかも分からない虱の群れ、
夜に運ばれて来た、卑しく這い進む波。
生きた者の目には誰も、その数を数えることは出来ず、
暗い歩道の上に、増え続けてゆくばかり、
それは老いた後にやって来た虫けら
熟れ過ぎた果実のように、古びたパリの街を蝕む。
それはあらゆる腐敗に吸い寄せられる蛆虫。
何故なら青春は生き絶え、餌の役に立つばかりだから。
パリ、1872年




十六世紀
XVIe siècle

苔の下に隠れる鳥の巣のような
森の中の小さな小屋を僕は知っている
そこではツグミが鳴き、ジャスミンが芽生えては、
鎧戸沿いに自由に這っている。

そこでは、毎朝、愛らしい夜明けの太陽が
緋色の寝床から顔赤らめて起き出してきて、
ノルマンディーの大きな雄鶏、よく響く声で、
僕に日の輝かしい目覚めを知らせる。

もし窓を少しばかり閉めておけば、
陽気なアトリ、恐れ知らずのスズメ達、
尖った小さな口ばし、頭には羽飾り付け、
揃って窓のそばでさえずりを始める。

その優しい言葉から、僕は多くのことを教わる
森で人の思うこと、巣について語られること、
人の知ること、畑や庭や、バラや
空色の亜麻や、黄色い小麦について。

それから僕は愛しい小さな花々を眺めるのが好き
金色の目の太陽は笑顔で空に上り、
鳥はさえずり、つかの間の恋を探し、
蜜蜂は音を立て、蜜を探し求める。

その時、全ては幸福に満ち、全てが愛しあい、歌いあい
僕にはどうしてこんなに幸福なのかも分からない
おお!残酷な運命よ、僕に慈悲を!
おお!慈悲を、僕はここでこんなにも幸福なのだから!
パリ、1872年




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