第145信 トレス夫人宛
Lettre 145 : À Mme Tresse
(*翻訳者 足立 和彦)
解説 一幕韻文劇『稽古』を出版者トレスが毎年発行する『寸劇と独白』 Saynètes et monologues 第六集に掲載するにあたって、モーパッサンが著作権料に関する要求を申し出ている書簡。この作品、実は以前に執筆済みのものであるが、モーパッサンはその事実を隠して交渉を有利に進めようとしているらしい。したたかさを見せる一面、まだ無名の作家が作品を売ることの難しさをよく物語る証言となっている。なお、『稽古』は作者の生前に上演されることはないままに終わる。
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文部芸術省
大臣官房
パリ、1879年8月22日
奥様、
利益に関する事柄は触れるのが難しいので、反論を持ち出すよりはむしろ、どんな条件も受け入れたいとは思います。昨日、お宅であったことがまさしくそのことなのです。お宅を出てから、この問題は手紙でやりとりするよりないと判断いたしました。
金銭に関するやりとりに触れず、私はあなたの申し出を受諾しました。しかしながら、我々の交わした契約は、私を厳しく困難な状況に置くということを、知って頂きたいのです。私の側の理由の正当さを認めてくださるものと思います。
あなたは、貴社の作品集のために、「ルイ十五世様式の衣装つき」の小品をお求めになりました。思い出していただけると存じますが、取り掛かっている最中の作品をしばらく中断しなければいけないので、最初、私はためらったのです。あなたは強く主張され、この作品に大きな関心をお示しくださいました。それで、あなたの書店との関係を取り結ぶために、それが長く続くように期待していますが、私は作品に取り掛かり、謝礼についてはお尋ねしませんでした。二ヶ月、私は時間をかけました。更に、あなたの要望に合わせて作品を修正いたしました。そして、あなたは50フランを提案なさる。それはちょうど、今現在、新聞紙上に載せる時評一本につき、私が受け取る金額なのですが、私は二時間でそれを仕上げるのです。
実際のところ、とても少ない金額です。いささか失礼でさえないでしょうか。もし作品が上演されれば、更に50フランくださるとのこと。もし作品が上演されれば、少なくとも500フランか、600フランは手にすることができるでしょう。50フランという金額は、したがって何物でもありません。しかしながら、この作品を上演するには、私には困難な点があるのですが、それはこの作品の製作の条件に由来するもので、実際のところ、初めは予想もしなかった類の困難です。
あなたはルイ十五世様式の衣装をお求めになった。さて、バランド氏は、私の作品を上演してくれる心積もりがあり、何か持って来るように迫っているのですが、昨年、彼は小品、「月の住人」の上演を中断しました。一晩ごとに衣装の賃貸代が30フランかかる、というのがその理由で、彼の劇場のわずかな収入では、この種の出費は許容出来ないのです。彼はワットー風の衣装も持っていません。それ故に、私もこの障害にぶつかり、たとえささやかな私の著作権を放棄しても(一晩約7フラン)、取り除くことが出来ないでしょう。この劇場の他では、通常の条件で私に開かれている劇場としては、フランス座やオデオンは恐らく無理で、ジムナーズ座は韻文作品をやらないので、小品をどこへ持って行けばいいのか分かりません。とりわけ文学的で、サロンやあなたの作品集向けに着想、執筆され、社交界の諺劇風で、ささやかな筋で、舞台に乗せ、世間を驚かせるのに必要な、いささか大げさな効果を取り入れてないような作品のことです。
それ故、もし私が懸念しますように、衣装の問題がバランド氏をしり込みさせた場合、あなたのお勧めに従って、私は50フランのために二ヶ月、働いたということになるのです。あらゆる点から見て、私は、自分の長編の執筆を続けたほうがよかったのではないでしょうか?
奥様、このような勘定についてご判断願いたいと思います。そしていささか性急に受諾した条件を、お受けする準備はあるとお告げした上で、公正さの点から、あなた様の契約を以下のように変更していただくことが可能だとお考えではないか、お伺いしたいのです。
原稿の委託に対して100フラン、作品はあなたに依頼され、特別な衣装という条件のもと、あなたのご希望に沿って書かれたものである故に。
もし作品が上演された場合、それは私の利益に関することなので、私はそれに向けて努力しますが、報酬としては、著作権だけで十分であり、あなたには何も要求いたしません。あなたの側では、ただ印刷にのみ関わりになってください。
お分かりのように、これによって全体の額に変更はありません。それに、まだ少ない、とても少ない額ですし、今後、このような取引は引き受けようとは思いません。最後に、このような仕方で、文学者として、二ヶ月かかった仕事に対し50フランを受け取るということを、いささかも侮辱とは思わないでしょう。
どうぞ一言ご返事ください。敬具。
ギィ・ド・モーパッサン
クローゼル通り17番地
又は、文部省
クローゼル通り17番地
又は、文部省
Guy de Maupassant, Correspondance, éd. Jacques Suffel, Évreux, Le Cercle du bibliophile, 1973, t. I, p. 232-234.
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