第89信 母親宛
Lettre 89 : À sa mère
(*翻訳者 足立 和彦)
解説 詩篇「最後の逃走」を3月19日付『ゴーロワ』紙Le Gauloisに掲載した経緯について書かれた書簡(部分)。「現実の中に詩を理解する」モーパッサン詩学が当時の社会においてはどのように見られていたのかが窺える。別の詩篇「田舎のヴィーナス」についての言及も見られ、詩人モーパッサンの様子を伝える書簡の一通。タルベは当時の『ゴーロワ』紙の編集長。話題の詩篇に付された前書きは「最後の逃走」解説に掲載。バルドゥー氏は当時の文部大臣。フロベールと親交があり、モーパッサンは彼のつてを頼りに海軍省から文部省への転勤を画策した。
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[断片]
海軍
植民地省
パリ、1878年3月21日
苦しんでいらっしゃると知って残念に思います、親愛なる母上様。辛抱し切れない思いで五月が来るのを待っていますが、きっと幾らか気晴らしを与えてくれるものと思います。ようやく冬は過ぎ去ったのですし、そこに重要な点があります。こちらでは、全てのマロニエが(3月20日のを除いてですが)緑になり始めていますし、空気は春の香りで一杯です。
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『ゴーロワ』に関しては、あまり騒がしく勝利を宣言したくはありませんが、とはいえお褒めではなかったこのアイデアが、そんなに不出来なものとも思っていないのです。次の点によくご留意ください。現実の中に詩を理解するというこのようなやり方は、因習に閉じ籠る者、理想の監視人、「崇高」を歌う粗暴なオルガンたちを驚かすでしょう。タルベは僕に言いました。「憤慨した抗議があったし、それも多くの人々からですよ」そのために、彼は僕の詩の冒頭に、お読みになったような可愛らしい記事を付け加えたのです。さて、どこかの民主主義的な新聞においてなら、古い階層の者たちが忌まわしいレアリスム云々かんぬんと罵声を浴びせたことでしょうが、保守的な新聞、ボナパルト派の最も穏健な機関紙、『フィガロ』のライヴァルとして好都合な新聞においては、僕の詩を評価するということには、特別な射程があるのです。
加えて、僕は待機し、時宜を選んだのですが、それはフロベールに詩篇をバルドゥー氏に渡してもうためです(今週にやってくれるでしょう)。そのことはご承知の状況においては計り知れないほどに有効なのです。
ウジェーヌ・ベランジェに会いましたが、称賛は受け取りませんでした。このような物の見方には息が詰まるとか「ヒキガエル」には怒りを覚えた云々。一時間ばかりの間、とんでもないパラドックスを持ちだして自分の詩学を擁護して楽しんでから、彼をすっかり憤らせたまま放っておきました。彼は叫びましたよ。「それはデカダンス、デカダンス、デカダンスだ。」僕は答えました。「自分の時代の文学運動を追わない者、オリジナルな見方と表明の仕方を持たない者は誰であれ、失敗者に過ぎない」、云々かんぬん。
彼が言うにはサルドゥーは生き残るだろうが、フロベールやゾラのは一行も残らないのだそうです。僕はそこにまた、僕流のちょっとした演説をぶちました。遂に、彼が僕に噛みつきそうなのを見て、僕は逃げ出しました、自分の議論が生んだ効果に惚れ惚れしてね!!!
フランス座のニュースはありませんが、僕は冷めています。それというのも確信をもっているのですが、ここに述べるには長すぎる多くの理由から、僕の作品は受け入れられないでしょう。僕はついてないのです。父さんに『ゴーロワ』へ行って、四部か五部もらってお母さんに送ってもらうように頼みました。
今は長編を中断しています。『田舎のヴィーナス』を仕上げるためで、全力で仕事をしています。それというのも『最後の逃走』の掲載の後、今から三週間か一月以内に新作を発表しなければならないことになりそうだからです。あまりに肉感的になりすぎないように努めるのが難しい。いずれにせよ際どいのですが、意図の巧みさでもってデリル神父を言いくるめます。新聞紙上へのこうした掲載の甚大な利点は、フランス中に運んでくれた上に、力づくで人々の記憶の中に入れてもらえることです。ちょうど植物の種を風がどこか遠くに蒔いてくれるように。
今コペとは最高にいい関係にあります。ドーデとの仲はいつも冷めていて、ゾラとは情愛を持って接しています。
さようなら、親愛なる母上様、千度も二千度も心から抱擁を。女中たちによろしく。
あなたの息子
ギィ・ド・モーパッサン
ギィ・ド・モーパッサン
ご健康に関していつも正確な情報をお知らせください。
Guy de Maupassant, Correspondance, éd. Jacques Suffel, Évreux, Le Cercle du bibliophile, 1973, t. I, p. 154-156.
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