「猫について」

« Sur les chats », le 9 février 1886



私は、この魅力的で不実な動物を愛しもし、嫌ってもいる……。

猫への愛憎半ばする思い、そして城館での不思議な一夜、

モーパッサンが猫について伸びやかに綴ったエッセイ。



「猫について」掲載紙 Source gallica.bnf.fr / BnF 解説 1886年2月9日、日刊紙『ジル・ブラース』Gil Blas に掲載された一文。同年、『ロックの娘』 La Petite Roque に収録。猫について愛憎半ばする気持ちを吐露したあと、記事の後半では南仏の古い城館に泊まった際に、「猫の出入り口 chatière」を自由に行き来する猫と遭遇した体験を語っている。
 初出時の体裁はクロニックで、実際この時期モーパッサンはアンティーブに滞在していた。しかし実際にトランを訪れたかどうかは不明で、ルイ・フォレスティエによれば、「四塔の城」の逸話は母ロールから伝え聞いたものだったのかもしれないといい、そうだとすれば創作が混ざっていることになるだろう。
 従僕フランソワは『ギィ・ド・モーパッサンについての思い出』のなかで、1885年冬、アンティーブ岬のヴィラ・ミュテルスにモーパッサンが母と滞在したことを記録している。ギィは母親と小説のプランについて話し合う一方、管理人の飼う猫と遊んでいた(『回想』、p. 55-56)。
 モーパッサンは猫好きだった。同じくフランソワの回想によれば、1884年12月に雌猫を飼い始め、ピロリ Piroli と名づけた(p. 34)。ピロリは87年9月に死ぬが、娘のプッシー Pussy が跡を継いだという(p. 95)。なお、猫の登場する短編に「ミスティ」(1884)がある。
 この一文の一節(第4段落「私は猫を苛立たせ~」)の原文と翻訳が、『ふらんす』、2026年1月号に掲載された(p. 1-2)。


***** ***** ***** *****

猫について


I
アンティーブ岬にて。


 先日、ドアの前のベンチに腰かけて日光を浴びつつ、花咲くアネモネの籠を前に、私は新刊の書物を読んでいた。稀なことにも誠実で好ましい、ジョルジュ・デュヴァルの『樽職人(1)』だった。庭師の飼っている太った白猫が膝に飛び乗ってきて、その勢いで本を閉じたので、私は本を脇に置いてこの動物を撫で始めた。
 暑かった。新鮮な花の香り、まだ密やかな香りが断続的に空気中を軽やかに通ってゆく。向こうに見える大きな白い山並みから降りてくる冷たいそよぎも時折吹き抜ける。
 だが日の光は鋭く焼けるようだ。大地を掘り起こして生命を与え、種子を割って眠っている胚を目覚めさせ、その芽から若葉が開く、そんな日差しだった。膝の上で猫は仰向けに転がり、足を宙にあげて爪を開いたり閉じたりする。唇の下には尖った牙が見え、ほとんど閉じた瞼の隙間から緑色の目が覗いている。私はこの柔らかく神経質な獣を撫で回す。絹地のようにしなやかで、柔らかで温かく、甘美であると同時に危険でもある。うっとりして喉を鳴らしながら、いつでも噛む用意ができている。おだてられるのと同じくらいに爪を立てることが好きなのだ。
首を差し出し、波のように体をくねらせる。私が触れるのをやめると、身を起こして私の手に頭を押しつけてくる。
 私は猫を苛立たせ、猫も私を苛立たせる。それというのも私は、この魅力的で不実な動物を愛しもし、嫌ってもいるからである。その体に触れ、絹のように音を立てる毛並みに手を滑らせ、繊細で甘美な毛皮に体温を感じるのは心地がいい。猫の温かく震える衣以上に柔らかなものはなく、これ以上に繊細で洗練された稀な感触を肌に与えてくれるものもない。だがこの生きた衣は、自分が愛撫している獣の首を絞めてやりたいという奇妙で残忍な欲望を私の指先に伝えてくる。私はこの獣のうちに、私を噛み、引き裂きたがっているという欲望を感じる。この獣が私に伝えてくる流体さながらにそれを感じ、この身に受け取る。熱い毛並みに埋めた指の先から受け取るのだ。その欲望は私の神経を伝い、四肢を伝って心臓や頭にまでのぼってきて私を満たす。肌の上を走り、歯ぎしりさせる。そして絶えず十本の指の先に生々しいかすかな疼きを感じるし、それが私のうちに沁み通り、侵入してくるのである。
 もしもこの動物が動き出して噛んだり爪を立てたりしたら、私は首を掴んで振り回し、投石器のように遠くへ投げ飛ばすだろう。あまりに素早くて急なので、猫にはやり返す暇もないだろう。
 私は思い出す。子どもの頃からもう、猫を愛しながらも、自分の小さな手で首を絞めてやりたいという欲望を不意に感じていたことを。ある日、庭の隅の森の入り口で、突然、丈の高い草の合間に何か灰色のものが転がっているのを見つけた。私は見にいった。それはくくり罠にかかった猫で、首を絞められてあえぎ、死にかけていた。身をよじり、爪で土を引っかき、跳ねあがるや生気なく落ち、同じことを繰り返す。しわがれてせわしない呼吸がポンプのような音を立てていた。その恐ろしい音が今でも耳に聞こえるようだ。
 スコップを取って罠を切るとか、召使いを探したり父親に知らせにいったりすることもできただろう。――だが私は動かなかった。心臓をどきどきさせ、震えるような残酷な喜びを感じながら猫が死ぬのを眺めていた。それは猫だった! 犬だったら、一秒でも長く苦しませないように歯で銅線を噛み切りもしただろう。
 そして猫が死んだあと、はっきりと死んだあとになって、私はまだ温かいその体を触り、尻尾を引っ張ったのだった。


II

 それでも猫たちは甘美であり、とりわけうっとりとさせる。それというのも、彼らが我々に体をこすりつけ、喉を鳴らし、体の上に乗って丸くなり、決して我々を見ていないような黄色い目でこちらを見ているときに、その体を撫でていると、彼らの愛情の不確かさ、彼らの快楽の不実なエゴイスムがはっきりと感じられるからである。
 女たちも同じ感覚を我々に与える。魅力的で、優しく、目は明るく偽りを漂わす、そんな女たちが我々を選んだのは、恋愛に身を寄せるためだ。彼女たちのそばにいて、彼女たちが腕を広げ、唇を差し出すとき、彼女たちを抱きしめ、心臓をどきどきさせ、彼女たちの甘美な愛撫に官能的で甘美な喜びを味わっているとき、雌猫を抱いているような感じがするものである。爪と牙を持った雌猫、不実で陰険、この恋する敵は、接吻に倦んだときには噛みつきもするだろう。
 あらゆる詩人が猫を愛した。ボードレール(2)は見事に猫を歌った。誰もが素晴らしいソネを知っている。

  熱烈な恋人たちも厳粛な学者たちも
  その成熟の季節には等しく猫を愛する
  家の誇りたる力強く優しい猫は
  彼らのように寒がりで、外に出たがらない

  科学と官能の友
  彼らは闇の沈黙と恐怖を求める
  彼らが高慢さを隷従に従わせることができたなら
  エレボスは地獄の使いにしただろうか?

  夢見ながら、彼らは高貴な姿勢を取る
  辺境の底に横たわるスフィンクスは
  終わりなき夢のなかに眠るかのごとし

  その多産な腰は魔法の火花にあふれ
  細かい砂のように黄金の粉末が
  神秘的な瞳のなかにぼんやりときらめく(3)


III

 私はあるとき、〈白い猫〉の魔法にかかった宮殿に暮らすような奇妙な印象を受けたことがある。謎めいて人を惑わす波のような獣が支配する魔法の城だ。おそらく、あらゆる生き物のなかで唯一足音がまったく聞こえないのが猫だろう。
 このあいだの夏、同じこの地中海の岸辺でのことだった。
 ニースではひどく暑く、この地の住民には上部の山地に一息つきに行けるような静かな谷間がないのだろうかと問い合わせたのだった。
 トラン(4)の谷間を教えられたので、それを見てみたいと思った。
 まず香水の町、グラースに行く必要があった。一リットル二千フランもする花のエッセンスやエキスがどのように作られているかについては、いつか話そうと思っている。そこで晩を過ごし、夜は町の古いホテルに泊まった。平凡な宿屋で、食事の質は部屋の清潔さ同様に疑わしかった。そして朝方に出発した。
 通りは山のただなかへ入ってゆく。山は深い峡谷に沿い、木々も生えない頂上は尖っていて、人気もなかった。私は、なんとも奇妙な避暑地を教えられたものだと考え、引き返して晩のうちにニースへ帰ろうかとなかば思いかけていたそのとき、突然、目の前の小さな谷をすっかりふさいでいるように見える山の上に、見事な巨大な廃墟が、塔や崩れた壁、見捨てられた城塞の奇妙な骨組みを空に描いているのが目に入った。それは古代のテンプル騎士団の所領で、彼らがかつてトランの国を治めていたのだった(5)
 この山の周りを回ると、突然、長い谷間が目に入った。緑にあふれ、さわやかで、疲れを癒してくれそうだった。奥には草原があり、水が流れ、柳が生えている。斜面にはモミの木が天まで続いている。
 谷の反対側、騎士領の正面だがより低いところに、人の住む城がそびえており、それが「四塔の城(6)」だ。1530年頃に築かれたものだが、ルネサンスの影響はまだ一切見られない。
 それは正方形の重々しく堅固な建築物で、堂々とした様子で、その名が示すように戦闘用の四つの塔を備えている。
 この城館の当主に宛てた紹介状を持っていたので、当主は私がホテルに投宿することを許さなかった。
 谷全体が実際に心地よく、想像しうる限りで最も魅力的な避暑地のひとつだった。私は晩まで散策し、夕食のあと、あてがわれた部屋へあがった。
 まず一種の客間を通ったが、壁はコルドバの古い革で覆われていた。次の部屋に入ると、ろうそくの明かりで壁にかかる貴婦人たちの肖像にさっと目をやった。それはテオフィル・ゴーティエ(7)が述べたような絵画だった。

  楕円形の額縁のなかのあなた方を見るのが好きだ
  古き世の奥方の黄色く色褪せた肖像画よ
  その手にはいくらかしなびた薔薇の花があるが
  百歳の花々になんと似つかわしいことか!(8)

 それからベッドのある部屋のなかへ入った。
 ひとりになってからその部屋を調べた。絵の描かれた古い布地が張られている。青い景色の奥に薔薇色の塔があり、宝石の葉々の下には大きな想像上の鳥たちがいた。
 化粧室は小塔にあった。窓は部屋のなかでは広いが、壁のほうでは狭くなっている。ぶ厚い壁を穿っているが、要するに銃眼、そこから人を殺すための開口部でしかなかった。私はドアを閉め、横になって眠りについた。
 夢を見た。いつでも、その日に起こったことを少しばかり夢に見るものだ。私は旅をしていた。宿屋に入ると、暖炉の前でテーブルについている大きなお仕着せを着た召使いと石工がいて、奇妙な組み合わせだったが、私は驚かなかった。この者たちは亡くなったばかりのヴィクトル・ユゴー(9)について話しており、私もおしゃべりに加わった。それから私は部屋に寝にいったが、ドアはまったく閉まらず、突然、私は召使いと石工が煉瓦を武器に、こっそり私のベッドへ向かってくるのに気がついた。
 私ははっと起きあがった。我に返るまで少しの時間が必要だった。それから前日の出来事、トランへの到着や城主の愛想のよい歓迎などを思い出した。また目を閉じようとしたとき、私は目にした。そう、闇夜の陰のなか、部屋の中央、おおよそ人の頭の高さのところに、燃えるようなふたつの目が私を見ているのを見たのだった。
 私はマッチを掴んだ。それを擦っているあいだに物音がした。軽い音、丸めた濡れた布が落ちたような柔らかい音が聞こえ、火がついたときには、部屋の中央の大きなテーブルのほかには何も見えなかった。
 起きあがってふたつの部屋、ベッドの下やたんすを調べたが、何もなかった。
 それで目覚めたあともまだいくらか夢を見ていたのだと思い、苦もなくまた眠りについた。
 また夢を見た。今度もまた旅の途上だが、東洋、私が愛する国においてだった。砂漠の真ん中に住んでいるトルコ人のところへ着いた。見事なトルコ人だった。アラブ人ではなくトルコ人で、太っていて愛想がよく、魅力的で、トルコ風の服装で頭にターバンを巻き、背中には絹織物を背負っている、フランス座で見るような真のトルコ人で、心地よい長椅子の上から私にお世辞を言い、ジャムを勧めてくれた。
 それから小柄な黒人が部屋に案内してくれた――私の夢はいつもこんな風に終わる――空色の部屋で、香が焚かれ、床には動物の皮、火の前には――火の観念は砂漠まで私につきまとう――低い椅子に座ったほとんど裸の女性が私を待っている。
 彼女は最も純粋な東洋人のタイプで、頬、額、あごに星が描かれ、目は大きく、体は見事で、少しばかり褐色だが、熱のこもった官能的な褐色である。
 彼女は私を見つめ、私は考える。「これこそ歓待というものだ。我々の愚かな北国、馬鹿げた気取りと醜い羞恥心と愚かな道徳の国では、こんな風によそ者を迎えたりはしない」
 私は彼女に近づき、話しかける。彼女の主人のトルコ人はよく知っていたが、彼女は私の言葉を一言も知らないので身振りで答える。
 彼女が黙っているのでなお一層幸福に感じ、私は彼女の手を取り、寝床に連れてゆくと、並んで体を伸ばした……。だがいつでもそういうときに目が覚めるのだ! 私は目を覚ましたが、手の下に何か温かく柔らかいものを感じ、自分がそれを優しく愛撫していたことにさほど驚きはしなかった。
 それから考えがはっきりし、一匹の太った猫が、私の頬に体をくっつけて丸まり、安心して眠っているということが分かった。私はそのままにして、もう一度、その猫と同じようにした。
 日が昇ったとき、猫は去っていた。私は本当に自分が夢を見ていたのだと思った。ドアには鍵がかかっていたのに、どうやって部屋に入り、また出ていくことができたのか分からなかったからだ。
 愛想のよい主人に出来事を(全部ではないが)話すと、彼は笑い出しながら「猫の道を通ってですよ」と言った。そしてカーテンを持ちあげて、壁にある黒くて丸い小穴を見せてくれた。
 そして、この地の大抵の古い屋敷には、こんな風に壁のなかに長く細い通路があって、地下室から屋根裏まで、女中の部屋から領主の部屋まで通じており、猫が王にして主人となっていることを私は知った。
 猫は好きなように行き来し、気の向くままに領地を訪れる。どんなベッドに眠ることもできるし、すべてを見聞きし、家中のあらゆる秘密や習慣、恥ずかしいことを知ることができる。音を立てずに進む動物、沈黙の徘徊者、夜に壁の空洞を散歩する者は、どこにでも入れるので、どこにいてもくつろいでいるのだ。
 そして私はボードレールの別の詩句を思ったのだった。

  それはその場に親しき精霊
  おのが帝国のすべてのものを
  裁き、統べ、搔き立てる
  おそらくは妖精か――はたまた神か?(10)


『ジル・ブラース』紙、1886年2月9日
Gil Blas, 9 février 1886.
Guy de Maupassant, Contes et nouvelles, éd. Louis Forestier, Gallimard, coll. « Bibliothèque de la Pléiade », t. II, 1979, p. 692-698.

(画像:Source gallica.bnf.fr / BnF)




訳注
(1) Georges Duval (1847-1919):ジャーナリスト、小説家、劇作家。主に『エヴェヌマン』で活動したほか、クロード・リュー Claude Rieux の名で『ゴーロワ』にも寄稿した。モーパッサンは「マダム・リュノー事件始末記」(『ジル・ブラース』、1883年8月21日)をデュヴァルに捧げている。『樽職人』 Le Tonnelier はマルポン&フラマリオン書店から1886年2月に刊行。実際にはモーパッサンはまだこの書籍を読んでいなかったと思われる。
(2) Charles Baudelaire (1821-1867):詩人。『悪の花』(1857)でフランス近代詩に革新をもたらした。また、未完の散文詩集『パリの憂鬱』を遺し、象徴派以降の世代に大きな影響を与えた。
(3) Charles Baudelaire, « LXVI Les Chats », dans Les Fleurs du Mal (1857). シャルル・ボードレール「猫たち」(『悪の花』(1857)所集)。
(4) Thorenc:グラースの北西約40キロに位置する。
(5) ここで言及されているのはアンドン Andon の村にある「トランの城塞 Castellaras de Thorenc」。現在では、本当にテンプル騎士団の所領だったかどうかは不明とされている。
(6) Château des Quatre-Tours:アンドン村、トランの城塞の北西約4キロに位置する。
(7) Théophile Gautier (1811-1872):詩人・小説家。ロマン主義を代表する作家のひとり。唯美主義を掲げた『モーパン嬢』(1835)序文が名高く、ボードレールら後世の詩人に大きな影響を与えた。詩集に『七宝螺鈿』(1852)など、小説に『ミイラ物語』(1858)、『キャピテン・フラカス』(1863)など。
(8) Théophile Gautier, « Pastel » (dans Œuvres de Théophile Gautier, Lemerre, t. I, 1890, « Poésies diverses 1833-1838 », p. 223). テオフィル・ゴーティエ「パステル」の第1節。
(9) Victor Hugo (1802-1885):詩人・劇作家・小説家。戯曲『クロムウェル』(1827)や『エルナニ』(1830)、『東方詩集』(1829)などによってロマン主義を主導した。第二帝政期には国外に亡命、小説『レ・ミゼラブル』(1862)を発表した。ユゴーは1885年1885年5月22日に83歳で亡くなり、6月1日に国葬が行われた。モーパッサンは「偉大な死者たち」(『フィガロ』、1885年6月20日)でユゴーの遺志について語っている。
(10) Charles Baudelaire, « LI Le Chat », dans Les Fleurs du Mal (1857). シャルル・ボードレール「猫」第2連第2節(『悪の花』(1857)所集)。


(*翻訳者 足立和彦)

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