美食について

Sur la gourmandise



D'ailleurs je ne cacherai pas mes préférences. De toutes les passions, la seule vraiment respectable me paraît être la gourmandise.
Aussi l'approche des primeurs m'emplit-elle d'une joie délicieuse.
(« Amoureux et primeurs » (1881), in Maupassant, Chroniques, U.G.E. coll. « 10/18 », 1980, t. I, p. 190.)

「もっとも、私は自分の好みを隠そうとは思わない。あらゆる情熱の中で、唯一本当に尊敬に値するものとは、美食であるように思われる。
 だから、初物の季節の到来には甘美な喜びに満たされるのだ。」
(「恋人達と初物」、1881年)

 春は恋の季節である。(「結婚について」の項参照)実際、モーパッサンは恋の目覚めの様を何度も作品に描いたが、しかしながら、作者その人は時評の中で、そうした考えを真っ向から否定してみせる。

Non point que je veuille dire du mal de l'amour. C'est l'amour printanier que je déteste, cette poussée de la sève du cœur, qui monte en même temps que la sêve des arbres, ce besoin inconscient qui vous prend de roucouler comme les tourteraux : fermentation de sang, rien de plus, piège grossier de la nature, où ne deveraient tomber que les très jeunes gens.
(Ibid., p. 188.)

 「恋愛がもたらす悪について言いたいのでは全然ない。私が嫌悪するのは春の恋愛であり、それはあの心の精気の高揚であって、樹液と同じ時に上ってくるのである。キジバトの雛のように甘い言葉を囁かせる、あの無意識の欲求、血液の醗酵であり、それ以上のものではなく、自然の粗雑な罠であり、そんなものにはまるのは若い者達だけに違いない。」
(同)

 モーパッサンは作品の中で人物をその欲望と本能の次元で捉えながら、それらに捕らわれる人間の愚かさに批判の目を向けることをやめない。彼一流のペシミスムの根源には、人間の存在そのものの抱える愚かさや醜さに対する、恨みにも似た思いがあるだろう。本能のままに行動する人間が粗野であるならば、真に繊細な人間は恋愛とは違うところに己が喜びを見出すだろう。そこで冒頭の美食礼賛の言葉に繋がることになる。

L'amour appartient à tout le monde. Chacun y passe et le subit plus ou moins ; et les choses rares sont seules précieuses.
(Ibid., p. 190)

「恋愛は皆のものである。誰もがそれを通過し、多かれ少なかれそれを蒙ることになる。だが稀なものだけに価値がある。」
(同)

Mais, de toutes les passions, la plus compliquée, la plus difficile à pratiquer supérieurement, la plus inaccessible au commun, la plus sensuelle au vrai sens du mot, la plus digne des artistes en raffinements, est assurément la gourmandise.
(Id.)

 「しかしながら、あらゆる情念の中で、最も複雑で、見事に実践するのが最も難しく、凡人には最も近寄り難く、言葉の真の意味で最も官能的であり、洗練された芸術家に最も相応しいものとは、紛れもなく美食である。」
(同)

 本能に捕らわれる粗野な人間から最も遠いところにある者、それは芸術家に他ならない。ここにはフロベールの影響が明瞭だが、モーパッサンは芸術家と、そうではないその他大勢の人間との違いを厳しく峻別する。洗練された趣味を至上のものとする姿勢は、同時代のデカダンスの風潮、とりわけユイスマンス『さかしま』に描かれる唯美主義の思想とも一脈繋がるものであろう。紛れもなく世紀末を生きたモーパッサンは、一般に思われている以上にはるかに、芸術至上主義の作家でもあった。とりわけ作家の「文体」に関しては、繰り返し言及されることになる。

Quiconque est capable de griffonner une lettre pousse la vanité jusqu'à s’imaginer qu'il a du style. Tout reporter se croit homme de lettres, et tout concierge, lisant l'œuvre d'un écrivain, s'érige en juge, déclare le livre bien ou mal écrit, selon qu'il correspond plus ou moins à la plate bêtise de son esprit.
(« Styliana » (1881), ibid., p. 344.)

 「文字を書きなぐることの出来るものは誰でも、自分が文体を持っていると自惚れる。あらゆる記者は自分が文学者だと信じているし、あらゆる門番は、ある作家の作品を読んでは、自ら評者をもって任じ、よく書かれているとか悪く書かれているとか宣言するが、それはその本が自分の平板な愚鈍さに見合っているかどうか次第なのである。」
(「スティリアナ」、1881年)

 従って、モーパッサンは次のように断言する。作家とグルメの関係を考察してみるのも興味深いことだろう。

Tous les hommes de lettres sont gourmands.
(« Amoureux et primeurs », ibid., p. 191.)

 「全ての文学者は、美食家である。」
(「恋人達と初物」)






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