モーパッサン コラム
Bavardages sur Maupassant
コラム リスト
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- モーパッサンを文庫で読もう! (06/01/2010)
- モーパッサンとサラ・ベルナール (21/11/2007)
- 『悪魔伯夫人』とは誰なのか -モーパッサンの偽作に関して(1) (22/02/2007)
- 「脂肪の塊」って何よ? (01/02/2007)
- モーパッサンが愛した女 (31/10/2006)
- エッフェル塔が嫌い (22/08/2006)
- コントとヌーヴエル (04/08/2006)
- ギとギーの狭間 (08/06/2006)
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モーパッサンに纏わるあれこれ、日頃気になったり考えたりしていることを記してみたものです。興味とお時間のある方は、是非お読みください。
一人の作家と彼の作品について「知る」というのはどういうことだろうか、と研究を始めてからずっと思っている。時間をかけて付き合えば、嫌でも知識は増えてゆく。けれど知れば知るほどに、分からないことは増えていくものであるし、結局のところ何をもって自分は彼を「理解した」といえるのか、いつまで経っても分からないでいる。これが世に言う「光陰矢の如し」というものだろうか。
もっとも、分かってしまったことは、その時点で面白みを失うものである。もし本当にモーパッサン文学を「分かった」時が来たならば、私はもう、モーパッサンを読まなくなるのかもしれない。それは良いことだろうか、そうでもないだろうか。なんにせよ、ある文学作品と深く付き合うということは、知らないこと、分からないことを、いつまででも追いかけてゆくということなのかもしれない。そしてそれだけの「謎」を抱えている作家・作品こそが、時代を超えて人を魅了するものなのかもしれない。そんな風に思いもする。
モーパッサンは決して簡単な作家ではない。と、ここ30年ばかりのモーパッサン研究者は繰り返し訴えてきた。粗野であると同時に審美家であり、クラシックでありながら現代的であり、自然主義者は実はロマンチスムを秘めている。陽気な笑いと悲惨への同情と現世嫌悪とをあわせもつモーパッサンと彼の文学は、まるで一貫性を欠くかのほどに多様であり、複雑であり、矛盾を抱えている。三百もの短編を残した事実こそが、その多様さ、多面性を何よりも雄弁に語っているだろう。
ひとりモーパッサンが特別にそうなのかどうなのか、私にはよく分からない。ただ確かなことは、彼の作品の中には確かに、汲めども尽きぬ魅力と、謎とが存在しているということだ。
その魅力を幾らかなりともお伝えできればと、ささやかに願う次第である。