第571信 ジャン・ブルドー宛

Lettre 571 : À Jean Bourdeau



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 ジャン・ブルドー (1848-1928) はエッセイ作家。哲学に関する著作を多数執筆したほか、ショーペンハウアー『思想・箴言と断片』 (1880) の翻訳で知られる人物。モーパッサンは1889年にブルドーと関りを持った。
 ここでモーパッサンは人生への倦怠を打ち明けている。全体のトーンは陰鬱であるが、そんな人生においても「束の間の奇妙で荒々しい美の啓示」の瞬間があると語っており、「感性の作家」としてのモーパッサンの一面を伝えている。


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モンシャナン通り10番地
[1889年9月]

 親愛なる友へ
 私は明日、海上旅行に出発します――エルバ島、コルシカ、イタリア沿岸へです。ですのであなたの質問にすぐにお答えしましょう。生きることの憂鬱になんらかの治療法を知っているかとお尋ねですね。――いいえ=はい。ぞっとするようなのを知っています=冗談=私は今では、すべてを冗談と取ります。ただしある種の職業的感動を除いて。私には、時折、束の間の奇妙で荒々しい美の啓示があります。まだ知らぬ、捉え難い美であり、それがなんらかの概念、言葉、光景、ある瞬間の世界の色合いによってかろうじて明かされるのです。その瞬間は私をして震え、感じ、味わう機械へと変じさせ、その機械は心地よく震えるのです。私はそれを伝えることも、表現することも、書くことも、言うこともできません。私はそれを保存しておきます。私にはそれ以外には、存在し、生きつづけ、生活を構成する愚かな物事を耳にし、自らもまき散らし、繰り返しつづけるどんな理由も存在しません。概念に関しては、それは多くの者、それも最良の者たちにとって「存在理由」となっていますが、私にとっては、最も複雑なものであっても単純で、人の知性を絶望させるものであるし、最も深いものであっても、五分ばかりも考えてみれば哀れなものである、そんな風に思われるのです。見るためには、とても敏感な優れた神経システム、とても繊細な表皮、優秀な目が必要であり、味わったり軽蔑したりするためには優れた精神が必要です。そして次には見たものすべて、一般に敬われ、評価され、価値があるとされ、称賛されているものを軽蔑すること。食べたものを消化するように自然かつ持続的に軽蔑することです。分かりますか、つまりは、あらゆる種類の食物が同じ汚物となるように、飲み干し、糧となさるがいい。理解し、消化した暁にはすべては〈汚物〉でしかありません。ですが食いしん坊であればすべては美味しく見えるものです。この試食用に、なにか変わった精神が持ってこられたら、初めの数口はしばしば美味しく、初めの幾度かの接吻は時には甘美でしょう。それが終わってしまえば=冗談にすることです。
 こうしたことをとても下手に表現してしまいました。時間があればもっと明確に、もっと正確に言えたでしょうが、その時間はありません。
 もしあなたがもう大食漢ではないか、かつてもそうでなかったなら、享楽家、そして中傷家におなりなさい。そうでないなら、すべてについて、あなた自身についてお泣きになるがいい。それは私がしばしばしていることです。
 私はトリエルを離れました。あそこには友人たちが夕食にやって来て、あなたがパリでしばしば耳にしたようなことを繰り返していました。昔と同じようにそれで笑っていました。美しい女性たちはいつも同じように着飾り、同じような仕方で同じ顔を振り向かせています。だいたい同じ時間に同じ料理を食べています。同じ時間に床に就いています。そしてまた同じことをするのだろうと、私は思っています。それが少なくとも私の身に起こることです。新しい人と一緒でありさえすれば、私もまだそこに幾らか喜びを感じると打ち明けましょう。こうしたことすべてを変えない限り、人生は単調で憂鬱なものでしょう。――そして誰も変えはしないのです。そのことを受け入れなさることです。
 この三頁ばかりの哲学の後にですが、――よろしければ――、親しい友よ、いくらか失望を軽くされんことを。心からの友愛をお信じください。

ギィ・ド・モーパッサン



Guy de Maupassant, Correspondance, éd. Jacques Suffel, Évreux, Le Cercle du bibliophile, 1973, t. III, p. 103-104.


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