モーパッサン
「エトルタの〈令嬢たちの部屋〉の伝説」

« Légende de la Chambre des Demoiselles à Étretat », 1871



(*翻訳者 足立 和彦)

「令嬢たちの部屋」掲載誌 解説 1897年12月15日、『ルヴュ・イリュストレ』誌 Revue illustrée に部分的に掲載された後、1922年12月15日『メルキュール・ド・フランス』Mercure de France にEdmond Spalikowski によって掲載された詩篇。『ルヴュ・イリュストレ』には「エトルタ、1871年」と記されている。
 音節数が7/3/7/7/3/7(韻はa/a/b/c/c/b)の6行1詩節、全15詩節(90行)からなり、モーパッサンには珍しい独創的な詩形となっている。
 〈令嬢たちの部屋〉は、ノルマンディー地方、エトルタの町の沿岸、「大弓門」Porte d'Aval の傍の断崖にある洞窟。モーパッサンはこの地に伝わる伝承を基にこの詩を着想したらしい。


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エトルタの〈令嬢たちの部屋〉の伝説


「令嬢たちの部屋」掲載誌 ゆっくりと波は訪れ
  岸辺を
いつまでも揺すり愛撫する。
それは悲しい秋の歌
  単調に
麗しの日々を求めて涙する。

孤立した崖の上の
  その場所
水の上に張り出して。
細い道がそこへ通じる
  葵と烏との
真の住まい。

人目にもつかぬ洞窟
  宙に浮かび
空と海との中間に
忘れられた部屋
  世界から
隔てられて。

かつて一人ならぬ愛らしい
  若い娘が
恋人に会いにやって来た。
この隠れ家は
  慎み深く
幸福な者を隠してきたという。

月の光は見たという
  一人ならぬ
心も軽い娘たち
足早に小道を駆け
  恐れも知らず
危険にも無頓着に。

けれど獲物の上を旋回する
  鷹の如く
彼女たちを窺うのは堕天使
いつでも罪を犯させる
  その先割れた
蹄の爪が跡残す所。

細い額のこの岩へと
  通じている
丘のふもとに、ある晩
無垢な少女が
  やって来て
婚約者を待っていた。

さてイヴを失った男
  浜辺の上
陽気な足取りで彼女を追った。
彼は言う「結婚があなたを誘う
  はやくおいで
優しい瞳の美しい娘よ

向こうの薔薇の寝床は
  すっかり花開き
若い恋人があなたを待っている
その孤独な秘密を
  成し遂げるため
彼はあの塔を選んだのだ」

彼女は狂喜し身も軽く
  見知らぬ女は
ああ、忠実なる天使が
泣くのも聞かずに
  そばには
声低く笑うサタン。

というのも、あまりに不実な
  その案内に従い
彼女は小道を滑りゆく。
だが背徳の彼は、頂から
  奈落へと
女を投げ落した――力強き神よ!

彼女の淡い影は残り
  苦しみながら
細い小道を見張っている。
この岩場に人が
  近づくや
彼女はその白い手を伸ばす。

この場所に、呪われた彼女が
  住んで以来
落ちた女は存在しない。
そうして彼女は復讐する
  大天使に
彼女が屈した相手に対して。

見に行きなさい、娘たちよ
  若い娘たちよ
私の物語に心痛めたら
あなたたちのためにこそ、人の噂は
  名付けたのだから
あのエトルタの洞窟を!

その足元に波は訪れ
  岸辺をたたき
いつまでも揺すり愛撫する。
それは悲しい秋の歌
  単調に
麗しの日々を求めて涙する。
[エトルタ、1871年]


「エトルタの〈令嬢たちの部屋〉の伝説」(1871年)
Guy de Maupassant, « Légende de la Chambre des Demoiselles à Étretat » (1871), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 205-208.


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