モーパッサン
「チュイルリー公園の愛の使い」

« Envoi d'amour dans le Jardin des Tuileries », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 12音節(アレクサンドラン)、16行からなる。
 手稿の存在が知られているが、決定稿と異同はなく、印刷に使われたものかもしれないという。執筆時期は不明。
 パリにおいて社交の舞台の一つであるチュイルリー公園を舞台とした本作は、田舎の自然を取り上げることの多い『詩集』の中では異色の作品と言える。詩人は子どもを持つ既婚夫人に密かに愛を伝えようとしている。「口づけ」が実体化して「使い」の役割を果たすという発想、それが相手の女性の身体に働きかけるといった見方に、モーパッサンの物質主義的な思想が窺える作品となっている。


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チュイルリー公園の愛の使い


おいで、幼子よ、僕が愛するお前の母は
お前が遊ぶのを見にあのベンチに座ったところ、
顔色は白く、人がキマイラを夢見るような髪は
夜の星々の黄金に染まったかのようで。
ここへおいで、幼子よ、ばら色の唇を
青い大きな瞳を、縮れた髪を差し出したまえ
口づけの荷を持たせてあげるから。
夜が閉じ、彼女のそばに戻って
お前の腕があのひとの首にからみつく時、
唇に、髪の上に、彼女が感じ取るように
火傷のように熱い何かを!
愛の欲求のように甘美な何かを!
その時にあのひとは言うだろう、体を震わし、
心が身を守ろうとする、この愛の呼び声にかき乱されて
お前の巻き毛の頭の上に、僕の口づけを受け取りながら。
――「この子の額に感じるのは、一体何だというのかしら?」


「チュイルリー公園の愛の使い」(1880年)
Guy de Maupassant, « Envoi d'amour dans le Jardin des Tuileries » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 53.


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