モーパッサン「ひげの女」

« La Femme à barbe », 1876



(*翻訳者 足立 和彦)

『十九世紀の新サチュロス高踏派詩集』表紙 解説 1881年、ベルギーの出版社キストメケールより刊行された『十九世紀の新サチュロス高踏派詩集』Le Nouveau Parnasse satyrique du Dix-neuvième siècle に収録されたエロチックな詩篇。アレクサンドラン(12音節)、54行からなり、平韻、交韻、抱擁韻が混ざっている。
 出版者アンリ・キストメケールは自然主義の若い作家の作品を進んで出版したが、一方で好色な文学作品の出版もよく行い、裁判所に出頭することも度々あった人物である。『新サチュロス高踏派詩集』は地下出版物であり、ユイスマンス、セアール、エニック、アレクシという『メダンの夕べ』共作者の詩篇も収録されている。モーパッサンは他に「我が泉」「69」を掲載している。
 モーパッサンに宛てたフロベールの書簡に言及があることから、この詩は1876年2月頃に制作されたと考えられる。モーパッサンは3月11日付ロベール・パンション宛書簡の中で、この作品をきっかけに女優シュザンヌ・ラジエと知り合ったと記している。
 1874年から78年頃にかけて、ロベール・パンション、アルベール・ド・ジョワンヴィル、レオン・フォンテーヌといったボート仲間たちと乱痴気騒ぎを繰り広げる中で、当時ジョゼフ・プリュニエと名乗っていたモーパッサンは幾つかのエロチックな詩篇を残しているが、本作はその内の一篇であり、ひげを生やした男性のような女性との情交を語っている。



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ひげの女


醜い大道芸人が芝居を終えた後、
僕は入った。そこで見たのは台の上に立つ
仰々しい身なりをしたとても大柄な娘
脂のしずくが、涙のように染みになっていた。
武器を掲げる兵士のように強張っていて
彼女の鼻は力強く、ワシのように曲がっていた。
だが彼女は若かった。――堂々としたひげが
あごを覆い、黒く、濃く、輝いていた。
僕は驚きに襲われ、そして知りたいと思った!
まず僕は彼女を晩の食事に誘った。
彼女は来た。青年のような恰好をしていた!
奇妙な震えが僕の皮膚を走り抜けた。
娘はとても醜かったが、青年は十分に美しかったのだ。

僕はいくらか内気な様子で正面に座り、
まるでぞっとする抱擁に身を任せるような
気分だった……。この男性の体格をした娘を
見ていると、時々、湧き上がるのが感じられた
放埓な事柄へのまったく新鮮な欲求、
人が口にしない快楽への好奇心、
男が近寄って来る時に女を襲う震えが。
僕の喉は渇き、僕の心臓は脈打った。
鏡に映った僕の顔はとても蒼ざめていた。
心ならずも、この病的な情熱に心が乱れた。
彼女は男のように飲み、同じように酔っぱらった。
そして腕を僕の首に回し、――おいで、好きよ、
可愛い人、と彼女は言った。あんたの家に行こうよ。
僕の部屋に着くとすぐに、
彼女は僕のズボンを開き、僕の性器を愛撫し、
大急ぎで服を脱いだ。黒く乾いた肉体についた
二つのボタンが彼女の乳房を示していた。
彼女は黄色く、細身で、痩せこけて、とても背が高い。
愛撫すると、両の脇腹のくぼみが見えた。
胸もなく、腹もなく、――穴のある男。
それを見た時、僕は身を起こした。
だが彼女は裸の胸に僕を抱きしめて、
未知の力で僕を参らせると、
荒々しい動作で僕を仰向けに倒し、
馬に乗るように、突然、僕の上にまたがると、
乾いた性器で僕のペニスを締めつけた。

彼女の大きなひげが僕の胸を覆って影にした。
彼女の顔が奇妙な風にゆがんだ。
僕は少年に犯されているような気になった!……

急速に、目を輝かせ、熱烈に、残忍に、
彼女は行く、行く、僕を激しく揺さぶって。
彼女の激しい快感が僕に伝染し、
死の痙攣のように僕の骨をひきつらせる。
そして身をよじり、痙攣して跳ね上がると、
僕の唇に、工兵のような顔を押しつけた。
そこから、噛み煙草の香りの混じった、
ジンの熱い息吹が届くのを感じた。
恍惚として、彼女はひげを僕の首にこすりつけた。
そして突然に、痩せて長い背骨を持ち上げて、
彼女は起き上がると、甲高い声で言ったのだ。
――まったく、すごい一発かましちゃったね!


Le Nouveau Parnasse satyrique du Dix-neuvième siècle, Bruxelles, Kistemaeckers, 1881, p. 137-138.
Guy de Maupassant, Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'université de Rouen, 2001, p. 232-233.




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