第48信 ロベール・パンション宛

Lettre 48 : À Robert Pinchon



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 ボート仲間である親しい友人に向けて近況を語った書簡。詩人としてパルナス派と交流しつつ、短編小説の執筆も始めた当時の状況をよく伝えている。またこの頃既に病の症状が出ており、モーパッサンは以後、終生病気と闘い続けることになる。書中言及の「詩」は「水辺にて」 « Au bord de l'eau » で、「ひげの女」 « La Femme à barbe » はポルノ詩編である。「ボートに乗って」 « En canot » は後に「水の上」 « Sur l'eau » と改題される。「プチ・ピエールの冒険」は恐らく、後の「シモンのパパ」であるだろう。ジョゼフ・プリュニエはボート仲間での愛称で、最初の短編の筆名にも使用している。


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1876年3月11日、パリ

 親愛なるトック帽へ、
 昨日君の手紙を受け取り、僕はその上に感動の涙を零した。直ちに思いついたのは、君のために大がかりの募金か宝くじをやるか、あるいはファルシーに一晩分の売り上げを諦めるように頼んで、君が僕らのところへ来れるようにしようということだった。間違いなく、パリ全体、とりわけ郊外が僕の呼びかけに応えるだろう。
 ・・・僕のほうでは、今は芝居には手をつけていない。劇場の支配人は、彼らのために仕事してやるに値しないと決定的に分かったのさ!!! 本当のところ、彼らは僕らの作品に魅力があるとは認めるのだが、上演はしないんだ。僕としては、出来が悪いと思いながら上演してくれるほうがよっぽどいいと思う。レーモン・デランドが僕の『稽古』を、ボードヴィル座でやるには繊細に過ぎると判断したなんて、言うまでもないことさ。僕もそんなに頑張った訳でもないしね。心臓には大いに困らされている。診察を受けに行き、完全な休息に、臭化カリウム、ジギタリス、夜更かしの禁止を命じられた。「この処置は何の効果ももたらさなかった。」それで今度は砒素、ヨウ化カリウム、イヌサフランのチンキを与えられた。「この処置は何の効果ももたらさなかった。」それで医者は僕に専門医に相談するように命じた。名医中の名医、ポタン博士・・・。彼の宣言するところでは、心臓自体は全く何の問題もないが、僕はニコチンの毒に侵され始めているという。僕ははっとさせられたので、直ちに全部のパイプを飲み込んでもう目にしないようにした。けれども心臓はいつも同じようなままだ。確かに、禁煙してまだ二週間だけれど。
 ・・・僕は一篇の詩を作った。最も偉大な詩人の一人という評判を一気に与えてくれるだろう。今月二十日に『文芸共和国』に掲載される。もしも編集者兼経営者が読まないでいてくれたなら。何故ならこの男性は熱烈なカトリック信者で、僕の作品はといえば、言葉は貞淑で、イメージと題材の点では、人が作ることの出来る中で最も不道徳で、最も淫らで、云々のものだから。フロベールはとても情熱的で、雑誌の編集責任者のカチュール・マンデスに送るように言ったんだ。彼はといえばすっかり仰天して、経営者に反して掲載しようとしている。それから彼はパルナスの何人もに詩を読んで聞かせた。それが話題に上って、この前の土曜日には、ゾラも出席した文学者の夕食会の場で、一時間ばかり、僕を全く知らない者たちの間で僕が話題の種になっているみたいだった。ゾラは拝聴しながら言葉を挟まなかった。マンデスは僕を何人かのパルナシアンに紹介してくれて、僕はお世辞をたくさんぶつけられた。でもただ一点、二人の人間が・・・のせいで死んでしまうという話を出版するのはきわどいことだ・・・。有名なバルベー・ドールヴィイのように予審判事の前に立たされることにならないだろうか?
 ・・・君はドーデの『ジャック』を読んだか? 大変優れている。ゾラは昨日、次の土曜日に出版の新しい小説を一部送ってくれた。見事だと思う。政治に関するもので、ルエールの物語だ。
 ・・・僕の『ひげの女』のお蔭で「情熱的な」――あらゆる点で― ―ファンに知り合えた。でも彼女相手にポティファルの奥さんと対面する哀れなヨセフの役を演じている。シュザンヌ・ラジエのことだ・・・
 上記のシュザンヌ・ラジエは、マチネで公衆の前で僕の一作品を絶対に朗誦したいと言っている。それは五月初めになるだろう、そこで彼女が上演する。今、僕はあらゆる女性に涙をこぼさせるような感動的な作品を書いている。
 ・・・僕の小説『ボートに乗って』は近日中に『オフィシエル』に、『プチ・ピエールの冒険』は恐らく『オピニオン・ナショナル』に載るだろう。恐らくというのは次の訳による。この新聞は僕の小説を受け取り、掲載すると約束した。それから土壇場になって、ごく自然な良心の配慮から、僕にお金を得たいという意志があるのかと尋ねてきた。疑いもなくそれがあると僕は答えた。すると編集者が、彼らにはまさしく僕に支払う意志はないと言ってきた。それで僕はこう答えてやった。僕には僕の作品を引っ込めて他に回すという意志があると。すると最終的な意志を決定するまで待ってくれと頼んできた。そういう訳で、目下『オピニオン』は僕をそれ(オピニオン)なしの状態に放っているんだ・・・

ジョゼフ・プリュニエ



Guy de Maupassant, Correspondance, éd. Jacques Suffel, Évreux, Le Cercle du bibliophile, 1973, t. I, p. 93-95.


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