モーパッサン「月光の歌」

« La Chanson du rayon de lune », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 第1、第4詩節は10音節、第2詩節は6音節、第3詩節は5音節。18行、18行、15行、8行で、全59行からなっている。
 かつて手稿が存在していたことが知られているが、現在、その所在は不明。執筆時期もよく分かっていない。「ある小説のために作られしもの」という副題が、実際に書かれた小説を指すのかどうかも不明である。
 1905年に刊行された『ノルマンディーのシャンソニエ』という歌曲集に収録されるが、そこに付された注によれば、この作品には、マルセル・ラベー Marcel Labey によって曲がつけられたという。


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月光の歌
ある小説のために作られしもの


僕が誰だか知ってるかい?――月の光さ。
どこから来たか知ってるかい?――上をご覧。
僕の母は輝いて、そして夜は赤茶色。
僕は木の下を這い、水の上を滑る。
草の上に伸び、砂丘を走る。
黒い壁、カバノキの上を昇ってゆく、
お宝を探す泥棒のように。
僕は決して冷たくない。僕は決して熱くない。
とても小さい僕だから
誰も通れない所へも。
ガラス窓に額をつけて、
秘密の場面をつかまえる。
あちこちで横になり、
森に住む動物や、
うっとり歩く恋人たち、
より愛そうと、僕を追う。
そして、空に消えた後には、
心に長い後悔を残す。

ナイチンゲールにムシクイは
楡の木や、松の木の
梢で僕に歌を歌う。
ウサギの巣穴を
覗き込むのが好きなんだ。
すると、家から出て来ては
すぐさまぴょんと飛び跳ねて、
それぞれお出かけ、駆けてゆく
道から道へと横切って。
谷の切れ目の底のほう
ダマシカたちを目覚めさす
それに怯えた牝ジカも。
彼女は黙って嗅ぎ当てる
隙を窺う狩人は
死を両手に抱いている。
あるいは大きな牡ジカが
秘密の恋を待ち望み
遠くから呼ぶ、その声を。

母さんが持ち上げる
泡立つ波を。
僕は起きて
それぞれの浜に
火を揺らす。
それから眠らす
影になった木々を。
僕の短い明かり
くぼんだ道では
時には剣のよう
臆病な旅人たちには。
陽気な心に
夢を与え
不幸な心に
つかの間の休息を。

僕が誰だか知ってるかい?――月の光さ。
どうして上からやって来たかは?
黒い木々の下、夜は赤茶色だった。
君は道に迷い、水に滑り落ちそうだった。
森の中をうろつき、砂丘をさ迷い
影の中、カバノキにぶつかったり。
君に道を教えてあげようと思う。
それで空からやって来たのさ。


「月光の歌」(1880年)
Guy de Maupassant, « La Chanson du rayon de lune » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 89-90.


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