モーパッサン「野雁」
« Les Oies sauvages », 1875
(*翻訳者 足立 和彦)
解説 1875年2月6日、『両世界の文芸・科学・芸術・産業についての挿絵入り雑誌』Revue illustrée des Lettres, Sciences, Arts et Industries dans les Deux Mondes の第11号に、ギ・ド・ヴァルモン Guy de Valmont の筆名で掲載された。後に1880年『詩集』 Des vers に収録。
12音節、全32行からなる。
空を渡ってゆく野雁と、地上の家鴨を対比させ、それぞれを自由と隷従の象徴として描く作品。上下の空間的な対立に加え、軽さと重さ、速さと遅さなどの対比が比喩によって強調されている。何気ない光景の内に〈詩〉を見いだそうとする、70年代のモーパッサンの詩学の実践の一例である。
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野雁
野雁
すべては無音、鳥たちももう声を上げない。
陰鬱な平野は、灰色の空の下、遠くに白い。
ただ、黒い大烏のみが、獲物を探して
嘴で雪を漁り、そのほの白さに染みを作る。
今、地平線上に騒ぎが持ち上がる。
近づき、やって来る、それは雁の群。
投げ出された矢のように、皆が、首を伸ばし、
絶えずより速く、取り乱したような飛行を続け、
過ぎて行く、音立てて翼で風を打ちながら。
空の巡礼者たちを導く先導者は
海の、森の、砂漠の彼方へ、
遅すぎる進み具合を急き立てるかのように、
しばしば、鋭い叫びを上げる。
二重のリボンのように、隊列は波を打ち、
奇妙なざわめきを立て、空に繰り広げるのは
翼を持つ大きな三角形、広がりながらなおも飛び行く。
だが平野に散らばる、彼らの囚われの兄弟たちは、
寒さに痺れたまま、重々しく歩んで行く。
ぼろを着た子どもが、口笛吹きつつ進ませるのは、
ゆっくりと揺れる、重たげな船のよう。
過ぎ行く種族の叫びを聞きつけ、
頭を立て、そして去って行くのを眺める
空間を横切る、自由なる旅行者たちを。
囚われの者たちは、突然に、出発のために身を起こす。
空しくも非力な翼を打ち下ろし、
そして、脚の上にすくりと身を立て、混乱の内にも感じ取る
あてどないこの呼び声に対し、大きくなりつつ持ち上がるのは
眠る心の奥底の、原初の自由、
空間への、暖かい岸辺への熱狂。
雪積もる平野を彼らは狂乱して駆ける、
そして空に絶望の叫び声を上げながら
野生の兄弟たちに向け、いつまでも答え続ける。
「野雁」(1875年)
Guy de Maupassant, « Les Oies sauvages » (1875), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 64-65.
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Guy de Maupassant, « Les Oies sauvages » (1875), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 64-65.
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