モーパッサン「祖父」

« L'Aïeul », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 8音節、最初の詩節は8行、2, 3, 4節は9行、全35行からなっている。
 手稿の存在は知られておらず、執筆時期は不明。『詩集』刊行直前に書かれたものかもしれない。
 臨終を迎えた老人の回想からなるこの詩篇は、子ども時代を描く「発見」と対になっているとエマニュエル・ヴァンサンは指摘している。


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祖父


祖父は死に瀕していた、冷たく硬直して。
彼は九十歳だった。
蒼ざめた額の白さは
白いシーツの上になお白かった。
大きな色薄い目をかすかに開くと、
彼は話し始めた、その声は
遠く、ぼんやりとして、喘ぎ声のよう
あるいは、森の奥の息吹きのようだった。

思い出だろうか、夢だろうか?
太陽が輝く明るい朝に
木は樹液の下に沸き立ち、
我が心は、鮮紅の血に脈打った。
思い出だろうか、夢だろうか?
人生はなんと甘美で短いことか!
思い出す、思い出す
過ぎ去った日々、昔の日々!
私は若かった! 思い出す!

思い出だろうか、夢だろうか?
波は感じる、震えが走るのを
潮風の立つ度に。
我が胸はあらゆる望みに震えた。
思い出だろうか、夢だろうか?
我らを奮い立たせるあの熱い息吹きは?
思い出す、思い出す!
力と若さよ! 賑やかな幸福!
愛よ! 愛よ! 思い出す!

思い出だろうか、夢だろうか?
我が胸は騒ぎに溢れる
波が浜辺に音を立てる、
思いはためらい、我を去る。
思い出だろうか、夢だろうか?
今始めるのか、もう成し遂げたのか?
思い出す、思い出す!
身内の者たちの傍に私は横たえられよう。
死よ! 死よ! 思い出す!


「祖父」(1880年)
Guy de Maupassant, « L'Aïeul » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 72-73.


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