モーパッサン「十六歳の散歩」

« Promenade à seize ans », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 平韻、12音節、全28行からなっている。
 前半19行のみの手稿の存在が知られており、「散歩」と題されていた(現在の所在は不明)。執筆時期について詳細は分かっていない。
 「発見」と同一の、少年時代の恋愛を回想的に描く作品。いずれも、純粋だった幼少時をノスタルジーを込めて想起している。


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十六歳の散歩


大地は空に向かって微笑んでいた。緑の草は
まだ露の雫に覆われていた。
世界中で、僕の心の中で、皆が歌っていた。
茂みに隠れた、からかい好きのツグミが
鳴いた。――僕を笑って?――そんなことは思いもよらなかった。
僕たちの両親は喧嘩していた、朝から晩まで
戦争状態だったから。もうその理由は分からない。
彼女は花を摘みながら、僕の傍を歩いていた。
僕は坂を上がり、苔の上に腰を下ろした
彼女の足下に。僕たちの前には赤茶けた丘が
太陽の下、地平線へと続いていた。
彼女は言った。「――ごらんなさい、この山、この黄色い
芝生、旅人に逆らう、あの急流を!」
僕は何も見ていなかった、彼女が美しいということを除いては。
その時に彼女は歌った。――どれほどその声を愛したろう!
引き返して、森を通らなければならなかった。
若い楡の木が倒れ、道をすっかり塞いでいた。
僕は駆けた。天蓋のように宙に支え上げた
すると、緑のドームに額を覆われながら、
美しい子どもは微笑みながら木の下を通った。
お互いを傍に感じて感動しつつ、内気なまま、
自分たちの足先と濡れた草とを眺めていた。
僕たちの周りの野原は静かだった。
時々、言葉もかけずに、彼女は目を上げた。
その時、僕には思えた(きっと僕は間違っているんだろう)
僕たちの若い心に、僕たちの視線が、たくさんの別の思いを
生まれさせたと。そして、目は小声ながら、僕たちよりも
ずっとうまく話し合い、口には出来ないことを告げていると。


「十六歳の散歩」(1880年)
Guy de Maupassant, « Promenade à seize ans » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 85.


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