モーパッサン「通りの会話」

« Propos des rues », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 12音節(アレクサンドラン)、54行からなっている。
 手稿などの存在は知られておらず、執筆時期は不明。ルイ・フォレスティエは1880年初頭ではないかと推測している。
 「慎みのない請願」同様に、ブルジョアの俗物性、愚鈍さを諷刺するこの対話篇には、『ブヴァールとペキュシェ』のフロベールの影響が窺われる。また、モーパッサンが1880年に新聞に掲載する連作短編『パリのあるブルジョアの日曜日』をも想起させる。ゾラを擁護する前衛的芸術家としての矜持を示す、一種の詩的マニフェストと言える作品である。


***** ***** ***** *****

通りの会話


大通りを少しばかりうろつく時、
何度、僕は耳にしただろう。悲しみに暮れることもなく、
大変有能そうに見える、勲章を下げた二人の男性が、
互いに微笑を浮かべながら、おしゃべりをしているのを。

一人目の勲章を下げた紳士
なんと、あなたですか?

二人目の勲章を下げた紳士
           なんて偶然でしょうな?

一人目の勲章を下げた紳士
                       調子のほうは?

二人目の勲章を下げた紳士
それなりに。あなたは?

一人目の勲章を下げた紳士
          どうも、大変結構ですよ。

二人目の勲章を下げた紳士
                なんて素晴らしい天気でしょうな!

一人目の勲章を下げた紳士
このまま続くようなら、夏はきっと
素晴らしいですな!

二人目の勲章を下げた紳士
          まったくです。

一人目の勲章を下げた紳士
               明日は、田舎に行くんですよ!
別荘ですがね。

二人目の勲章を下げた紳士
       その時期ですからな。皆が出かけます。

一人目の勲章を下げた紳士
そう。――我が家ではリラが少しばかり遅れてましてな。
空の底が乾いていて、夜は大変に涼しいのです。

二人目の勲章を下げた紳士
赤い月が出てますな。釣りはよくやりますかな?

一人目の勲章を下げた紳士
まあ――ほどほどにね。

二人目の勲章を下げた紳士
           さて、何か新しいことは?

一人目の勲章を下げた紳士
                       何もねえ。

二人目の勲章を下げた紳士
                            奥様は
お元気で?

一人目の勲章を下げた紳士
      風邪気味なんですよ。

二人目の勲章を下げた紳士
                おお! 今日では、
皆が体を悪くしますな。――マシャンの劇は
ご覧になった?

一人目の勲章を下げた紳士
       私が?――観てませんな――何と言っています?

二人目の勲章を下げた紳士
                        ほとんど失敗作。
十分に今時じゃないということですな。
サルドゥーとは大違い。見事ですな、サルドゥーは!

一人目の勲章を下げた紳士
                         全くです!

二人目の勲章を下げた紳士
マシャンは張り切りすぎですな。本の中では結構。
仕事や苦心はそれほど気になりません。
だが劇場では、しゃべるように書かなくては。

一人目の勲章を下げた紳士
私はフイエを読み直しました。あれこそ散文ですよ!
今時の本の書き手はどれもこれも
手にも取りませんよ。――もうたくさん本を読む年じゃ
ありませんからな。気晴らしには新聞で十分です。

二人目の勲章を下げた紳士
新聞と……それと……色事ですな!……
                 ――彼らはあの小さな笑みを見せ
それによって、礼儀に適った悪事を告白するのである。――

二人目の勲章を下げた紳士
それで食事は?

一人目の勲章を下げた紳士
      おお! それはありませんよ。その種の欠点とは無縁で。

二人目の勲章を下げた紳士
それで、政治にいつもお忙しい?

一人目の勲章を下げた紳士
大変にですよ、それが私の慰めなんです!

二人目の勲章を下げた紳士
おお! 人生を〈公事〉に捧げる、
確かに、それは偉大で、高貴な野心というもの。
今は、大勢の誇らしい人物がいますな
議会の演説者の中に。

一人目の勲章を下げた紳士
          彼らは大変に結構ですな、大変結構。

二人目の勲章を下げた紳士
だがチエールとシャンガルニエが亡くなったのは不幸です!
ところで、あのゾラはお読みですか?

一人目の勲章を下げた紳士
                  汚らわしい!!!

二人目の勲章を下げた紳士
その内、何もかもが高いと不平を言い出すことになりましょう。
誰もが、ごまかし、騙し、盗み、くすねるとね!
道徳は駄目になり、家族は破壊される。
我々はどうなるんでしょうな?

一人目の勲章を下げた紳士
            ああ!……それでは、これで失礼しますよ。
時間が押していますので。

二人目の勲章を下げた紳士
            さようなら。奥様によろしく。

一人目の勲章を下げた紳士
欠かさず伝えましょう。娘さんにも、
どうぞよろしくと。
         ――そして各々は立ち去る。――
そして賢明なる司祭たちは、彼らにも魂があるという!
さらに、神が人間を動物より上に生まれさせたということの
はっきりとした証拠があるとするならば、
頭の内に威厳ある思想を与えたということであり、
この高貴な精神は絶えず進歩しているというのである。

しかしこの老いた世界が存在してもう随分長く、
人間の愚かさは頑迷なまでに存続している!
人間と子牛の間で、僕の心がためらうとすれば、
僕の理性は、すべき選択をよく心得ている!
なぜなら、僕には理解できない、おお、粗雑な者たちよ、人がなぜ
しゃべらない愚かさよりも、しゃべる愚かさのほうを好むのか!


「通りの会話」(1880年)
Guy de Maupassant, « Propos des rues » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 95-98.


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