モーパッサン「慎みのない請願」

« Sommation sans respect », 1880



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1880年『詩集』 Des vers に初めて収録された詩篇。
 12音節、4行1詩節で14節、全56行からなっている。
 1875年5月8日の母親宛ての書簡の中に次の言葉が見られる。「作品に関しては、最近作った詩篇が以下です。敬意ある請願。」したがって、初稿はこの時期に書かれたものと考えられる。
 「敬意ある請願」« sommation respectueux »は、両親が結婚に反対している時に、子どもが取る法的手続きを指す。本作はそのパロディーとなっており、愛人が人妻に対して、結婚や貞節の無意味さを皮肉を込めて訴えている。「通りの会話」とともに、ブルジョワ社会の諷刺となっている。


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慎みのない請願


あなたの旦那はほとんど知りませんでした、奥様。
太っていて醜かった。ただそれだけでしたとも。
でもある女性を愛している時に、気を悪くすることはありません
夫が片目で、がに股で、リウマチ持ちであろうとも。

この者は無害な上に愚かに見えました
危険であるにはあまりにも小さすぎて、
私たち二人の間に、立ったままでもいれたでしょう
彼の頭越しに、私たちは愛し合うわけです。

それから、つまり私にとっては問題ではなかった。でも今日になって
あなたのお心に、よく分からない気まぐれが訪れました。
誓い、義務、犠牲などとおっしゃり、
そして永遠の後悔とまで!……それは全部、彼のためなのですか?

よくお考えなのですか、奥様? それではあなたは、ご自分が、
若く、美しく、心は希望に膨らむあなたが、
あなたを冒涜する、あの醜男の傍で
毎日を生き、毎夜を過ごすために生まれたとお思いなのですか?

なんと! 一瞬でも後悔をお感じになることがあるでしょうか?
あのおめでたい小男を、騙すことなどできるでしょうか、
思うに、心も体も意気地なしで
子孫を残すことが出来たら驚きだというのに。

ご覧なさい、奥様、穴の開いた彼の目は
松脂の樽に開く、二つの小さな穴みたいです。
手足は短かすぎ、発育不全のようで
びっくりするような腹に、胸が埋まっていて、

あらゆる機会に、彼の邪魔をするのです。
食事時には、首にナプキンをかけて
シャツの飾りを汚さないようにする
もっとも煙草の匂いが染みついている、嗅ぎ煙草をやるもので。

一度客間に入れば、暗い隅に一人、
距離を空けて座るか、こそこそと立ち去って、
台所の暖かい竈の傍へ、なぜなら
消化の最中、オルガンのように鼾をかくのを承知なので。

落ち着いて言葉遊びをやらかします。
あなたを呼ぶには「子猫ちゃん」それに「かわい子ちゃん」
そして栄誉と評判のためには、
揉め事の際には、相談すべき隣人でいたいのです。

あちこちで、あれは実に善良な男だという。
秩序を守り、注意深く、賢く、倹約家で、
女中を監視し、ふくらはぎをつまむが、
それより上には行かない……彼女は彼を醜いと思っている。

彼は蝋燭を隠し、砂糖を大事にしている。
喜んで、自分の靴下を縫おうとする。
そして、心はお金への愛情で一杯にも関わらず、
恐らくはあなたも愛しているのでしょう。いずれにせよ

ロバが詩を理解するほどにも、彼はあなたを理解しない。
あなたの傍に暮らすが、あなたと一緒にではなく、
私があなたを愛していると、突然、彼に告げたとしても
嫉妬するより恐らくは、自慢に思うことでしょう。

息を吹き込み、膨らましなさい、この太っちょの見張り人を、
愛の上に乗せかける、このグロテスクな案山子を、
木で出来た人形を、木の間に差すように
鳥たちも、最初だけしか驚かない。

もうすぐ私は、この腕にあなたを抱くでしょう。
抑え難く、私たちはお互いに向かって行きます。
二人の間に、この風船旦那が留まっているように、
私たちの抱擁で、破裂させてしまいましょう!


「慎みのない請願」(1880年)
Guy de Maupassant, « Sommation sans respect » (1880), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 86-88.


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