モーパッサン
「ルイ・ブイエの死について」

« Sur la mort de Louis Bouilhet », 1869



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 『ルヴュ・デ・ルヴュ』 の1900年7月1日号に初めて掲載された詩篇。アレクサンドラン(12音節)、45行からなり、平韻、交韻、抱擁韻が混ざっている。
 詩人ルイ・ブイエ Louis-Hyacinthe Bouilhet (1821-1869) 追悼のために書かれたもの。正確な執筆時期は不明(初出時には「1869年」の記載あり)。末尾近くに遺体の目についての言及があることを踏まえると、死後すぐに書かれたのかもしれない。
 ブイエはルーアンに暮らした、高踏派の傍流に位置づけられる詩人。ルーアンの中等学校でフロベールの同級生となり、以後親しい友人となった。『メレニス ローマの物語』(1857)、詩集『フェストンとアストラガル』(1859)、戯曲に『マダム・ド・モンタルシー』(1856) などがある。遺作『最後の歌』はフロベールの助力によって1872年に出版され、フロベールは序文を寄せている。
 1868年秋、モーパッサンはルーアンの高校に転入し、寄宿生となった。そこでブイエと知り合い、約1年のあいだ師事したが、ブイエは69年7月18日に急逝した。
 1882年に、ブイエ像除幕に際して、モーパッサンは評論「ルイ・ブイエ」を発表し、そこで二人の交際について語っている。また、1888年「小説論」のなかでは、100行の詩句でもそれが真の傑作であれば後世に名を残せるのだから完璧を目指すべきだという、ブイエの教えが語られている。
 モーパッサンは評論のなかでブイエの詩をたびたび引用している。ブイエは彼にとって最高の詩人でありつづけたと言えるだろう。


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ルイ・ブイエの死について


彼が死んだ、彼、我が師。彼が死んだ、なぜなのか?
とても善良で、とても偉大で、僕を歓迎してくれた彼が。
主よ、つまりあなたは、僕たちがいるこの世界において、
最も偉大な人物を選び、僕たちから奪われるのでしょう。
こうして人は死に、僕たちは無力であり、
残される者が泣いても、主よ、それは空しいのです。
あのような人たちが発ったとき、天では何が起こるのでしょう?
おお! 偉大なる神よ、なぜあのような人々が死ぬのを望むのです?
あなたの無限の栄光のために、彼らが必要なのですか?
彼が死んだ、本当に? あれらの死者はいったい何なのでしょう?
もう何も残っていない、ただ哀れな肉体だけ、
彼の何も残っていない。あの親切なほほ笑みさえも。
その笑みは僕たちを惹きつけ、いつも言うかのようだった、
「友よ、君を愛している」と。そしてあの美しい眼差し、
知性に溢れるあの明るく澄んだ、優しい大きな目。
こうして墓のなかに動けずに留まっていることで、
彼が恐ろしいほどに苦しんでいる違いないと感じられる。
だが違う、そこにこそ、計り知れない神秘があるのだ。
麦の種子は再生し、大地から生えるのだから、
この世界では何物も死に絶えはしないのだから、
すべては進歩であり、変化であるのだから、
彼はただ、なきがらを置いていっただけなのだ。
だが彼の魂は、神よ、今、何をしているのでしょうか?
僕たちのもとから離れ、こんなにも早くに、
彼方で待つ偉大な兄弟たちと一緒になったのでしょうか?
どんな未知の世界を、この魂はさ迷っているのでしょう。
優しさのこもった、大きな目をした詩人の魂は、
時折、あまりに強い雷光を僕たちに投げかけたので、
炎の噴出を見るように、目がくらむほどだった。
そしてあの目……。じっと見すえて人を怖がらせるが、
未知の恐怖に怯えているいるようでもある、
あたかも彼を生かしていた魂が先ほど戻ってきて、
僕たちの前で動くのを見たかのように!……
ああ! あなたが目にしたなら、花咲く梨の木の下で、
僕の腕に腕を重ね、老いた詩人どうしのように語りながら、
美しい魂を長々としたおしゃべりに開く、そんな時の彼の姿を。
そのおしゃべりは、僕を長い夢想の後のようにさせた。
というのも彼はとても率直、素朴で自然だった。
可哀そうなブイエ! 彼が死んだ! 善良で、父のようだった!
彼はもう一人の救世主であるかのように見えていた、
詩が眠る天の鍵を所持していたのだから。
そして今や彼は死に、永遠に旅立った、
天才が息をする、あの永遠の世界へと。
だが恐らくは彼方で、彼は僕たちを見て、読むことができるだろう
僕の心にあるものを、僕がどれほど彼を愛しているかを。


Revue des revues, 1er juillet 1900, p. 37-38.
Guy de Maupassant, Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'université de Rouen, 2001, p. 196-197.




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