第159信 ギュスターヴ・フロベール宛

Lettre 159 : À Gustave Flaubert



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 師フロベールに宛てたこの書簡の中で、モーパッサンは『メダンの夕べ』が編まれるに至った経過と、そこに込められた意図を説明している。若い出版人シャルパンティエはゾラの著作を出版し、自然主義と縁があった人物。ただしモーパッサンは『詩集』以降は別の出版者を探すことになる。普仏戦争について「真実」を語るのが目的という『メダンの夕べ』、モーパッサンやユイスマンスは当時20代で戦争に狩り出され、厳しい現実を目の当たりにした。「私がルアンの人たちについて述べることは真実にはまだ程遠いのです」 (ce que je dis des Rouennais est encore beaucoup au-dessous de la vérité) の言葉に、モーパッサンの強い思いが込められているといえるだろう。
 なお文末のアダン夫人の雑誌は『ヌーヴェル・ルヴュ』、問題の詩篇は「愛の終わり」である。


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文部芸術省
書記課
第一部局
1880年1月5日、パリ

 親愛なる先生、
 この間私がクロワッセに旅行した際に、我々の小説集についてお話ししたことをお忘れになったようでので、急いで事情をご説明しようと思います。最初ロシアで、次いでフランスの『改革』紙上に、ゾラは『水車小屋の襲撃』という戦争についての小説を発表しました。ユイスマンスはブリュッセルで、別の『背嚢を背負って』という小説を出しました。最後にセアールが、自分が特派員を勤めているロシアの雑誌に、パリ包囲についてのとても興味深く、大変暴力的な物語を送ったのですが、『瀉血』というタイトルです。ゾラはこの二作品のことを知って、自分のと合せて興味を惹く本が出来るだろう、それは愛国色が薄く、特別な調子を備えたものになるだろうという意見を述べました。それで、彼はエニック、アレクシ、そして私にも、それぞれ一作書いて全体を補うように勧めたのです。そうすると、彼の名前のお蔭で本が売れて、我々一人ずつ、百か二百フランを得られるという利点があります。直ちに我々は仕事に取り掛かり、シャルパンティエが原稿を受け取りました。本は3月1日頃に世に出るでしょう。
 この本を作る際に、我々には反愛国主義的な意図は全然ありませんでしたし、他のどんな意図もなかったのです。ただ我々が努めたのは、戦争について語る正しい調子を自分たちの物語に与えるとともに、デルレード流の盲目的愛国主義、偽りの熱狂を取り去るということでした。そうしたものが、赤いキュロットと銃を語る際には不可欠であると、今日まで考えられてきたのです。将軍たちというものは、揃ってもっとも高貴な感情や、偉大で高邁な熱情に沸き立つ計算家であるわけではなく、ただ他の者と変わらない平凡な人間であるだけですが、加えるに飾り紐のついた帽子を被って、別に悪意があるのでもなく、ただ愚かさが理由で人間を殺させるのです。軍事を評価する際の我々の側のこの「良心」が、この本全体に奇妙な様子を与え、誰もが無意識的に熱くなるこの種の問題についての我々の意図的な無関心が、全速力の攻撃よりも千倍もブルジョアたちを憤慨させることでしょう。それは反愛国的なのではなく、ただ単に真実であるでしょう。もっとも、私がルアンの人たちについて述べることは真実にはまだ程遠いのです。
 私の詩集に関しては、ただシャルパンティエに告げただけで、彼はまだ原稿を手にしていません。この出版者の遅さを私は大いに危惧していますが、彼はどんどんと経済的な困難に嵌っています。(彼はユイスマンスに払うべき八百フランを払えず、前払いで四百フラン払っただけです。)
 大臣は私を教育功労賞にノミネートしたばかりです。別に感動もしませんけれど。
 ニュースとしては何もありません。アダン夫人の雑誌に一篇の詩を送ったのは、もう五週間ばかり前です。彼女から返事は来ませんでした。間違いなく、彼女にはデルレードのほうがお好みなんでしょう。
 さようなら、わが親愛なる先生。敬具。

ギィ・ド・モーパッサン



Guy de Maupassant, Correspondance, éd. Jacques Suffel, Évreux, Le Cercle du bibliophile, 1973, t. I, p. 252-254.


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