モーパッサン「日射病」

« Un coup de soleil », 1876



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1876年6月20日付『文芸共和国』La République des lettres に、ギ・ド・ヴァルモン Guy de Valmont の筆名で掲載された詩篇(「恐怖」「雪の夜」と同時掲載)。後に1880年『詩集』 Des vers に収録。
 12音節、24行からなる。執筆時期に関しては、証言などがなく不明。恐らく、1872年から76年の間と推測される。
 通りで女性とすれ違うという短編小説的な冒頭から一転、二人は天空へと飛び立ち、太陽へと向かう中で、女性が死んでいることに気づく。詩人の想像力の中で、エロスとタナトスは緊密に結びつく。ここには、物質主義と象徴主義を融合させた独自の詩的世界の表象が認められるだろう。


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日射病


六月のことだった。すべてが祭りの中にあるようだった。
群集は騒がしく、心配事もなく行き来していた。
何故だかよく分からないけれど、僕もまた幸福だった。
この騒ぎが、酔いのように、僕の頭を乱したのだ。
太陽は肉体の力を掻き立てた。
丸ごと、存在の奥底にまで飛び込んで来たのだ。
そして僕は、自分の内に沸き立つのを感じた、最初の太陽が
アダムの心に生まれさせた、あの激情。
一人の女性が通り過ぎた。彼女は僕を見た。
どんな炎を、彼女の瞳は僕に投げかけたのか
僕の魂は、どんな熱狂に捕われたというのか。
突然に、狂乱の如くに、僕に訪れたのは
彼女に飛びかりたいという、この腕に彼女を抱き
その唇に口づけたいという、いきり立った欲望!
赤い、血に染まった雲が、僕の目を覆った。
そして、猛り立つ口づけの内に、彼女を捕えたと思った。
僕は彼女を締めつけ、たわめ、のけぞらせた。
それから、突然に、力を込めて彼女を抱え上げると、
僕は足で大地を蹴った。そして太陽に輝く
空宙の中に、一気に、彼女を運び去ったのだ。
体を合わせ、顔を重ねて、僕たちは天を進んだ。
そして僕は、絶えず、燃え上がる恒星へと上りながら、
力を込めて、胸に彼女を押しつけていたので、
痙攣する腕の中で、彼女が生き絶えているのを見た……


「日射病」(1876年)
Guy de Maupassant, « Un coup de soleil » (1876), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 44.


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