モーパッサン「恐怖」

« Terreur », 1876



(*翻訳者 足立 和彦)

解説 1875年1月9日、『両世界の文芸・科学・芸術・産業についての挿絵入り雑誌』Revue illustrée des Lettres, Sciences, Arts et Industries dans les Deux Mondes の第7号に、ギ・ド・ヴァルモン Guy de Valmont の筆名で、「恐怖」« La Peur »の題で掲載された。改稿を経て、1876年6月20日付『文芸共和国』La République des lettres に、同じくギ・ド・ヴァルモンの筆名で掲載される(「日射病」「雪の夜」と同時掲載)。後に1880年『詩集』 Des vers に収録。
 12音節、24行からなる。
 本作は超自然的な存在に対する恐怖を語った、『詩集』の中の異色の詩篇である。モーパッサンは1875年に「エラクリユス・グロス博士」「剥製の手」を執筆しており、この時期に怪奇小説への好みを示していた。本作もその範疇に含められるだろう。
 語り手に取り憑く謎の存在という主題は、後年の幻想小説「オルラ」にも通じている。ごく早い時期から、モーパッサンが「恐怖」という主題に魅せられていたことが窺える作品である。


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恐怖


その夜、私は誰かの本を随分と長い間読んでいた。
夜遅かった。突然に、私は恐れを感じた。
何に対して? 分からない、だが大変な恐怖だった。
私は理解した、喘ぎ、恐れに戦きながら、
何か大変なことが起ころうとしているのを……
その時、自分の背後に感じたような気がした
誰かが立っていて、その顔は
残忍で、不動の、神経質な笑みを浮かべている。
その間、私は何も耳にしなかった。おお、なんという苦しみ!
彼が私の髪に手を触れようと身を屈め、
その手を私の肩に置こうとしているのを、
そしてもしその手が触れれば、死んでしまうと感じるというのは!……
絶えず彼は私に身を屈め、絶えず近づきつつあった。
そして私は、永遠の救いのためなら、体を動かすことも、
頭を向けることもしなかっただろう……
嵐に打たれた鳥たちのように、
私の思考は、恐怖に狂ったようにさ迷っていた。
死の汗が私の体を隅々まで凍らせた。
そして部屋の中には何も聞こえなかった
恐怖に打ち鳴らされる自分の歯の音を除いては。

突然、弾けるような音が鳴った。驚愕に狂わんばかり、
決して生きる者の胸から出たこともないような
これ以上ない凄まじい唸り声を上げると、
私は仰向けに倒れた、硬直し、身動き一つないままに。


「恐怖」(1880年)
Guy de Maupassant, « Terreur » (1876), dans Des vers et autres poèmes, éd. Emmanuel Vincent, Publications de l'Université de Rouen, 2001, p. 45.


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